いいものを書こうとする
いいものを書こうとすると、だいたい何も書けない。
そこから無理やり書いても、楽しくない。そして、もし書けたとしても、どこかで見たような文章、内容になってしまう。ははは。
自分のブログの記事を読み返すと、「面白くないな」と思うものがある。だいたい面白くないものは、いい子ぶって書いたもの。9割以上はそうかもしれない。逆に、「面白いな」と感じるものは、素直に書いたもの。書いているときは楽しかった。
ははは。
母親に大学のレポートをみせると、「かっこいい文章だね」と言われた。論文調で書いているから、確かに、小難しくかしこまった文章になっている。僕はやわらかい文章を書けるようになりたい。だから、「かっこいい文章」と言われ、嬉しさ4割、悔しさ6割を感じた。
僕が尊敬している作家さんは、吉本ばななさん、いしいしんじさん、小川洋子さん、宇佐見りんさんだ。ほんとうはもっといるけれど、自分の中の四天王を挙げてみた。みなさんとても柔らかい文章を書かれる。
「わたしはアップルパイの白い箱を胸の前で抱え、不運な偶然が二度続いたことにため息をついた。そして熟れすぎたトマトのようにつぶれてしまった筋肉や、砂利の間にはりついた髪の毛や、枕木の上に転がっている骨のかけらを思い浮かべた」
小川洋子「妊娠カレンダー」文春文庫 1994 p113、114
この美しい文章は、小川洋子さんにしか書けないと思う。線路で起こった人身事故の現場を、主人公が想像している場面だ。
彼女は、悲惨な状況をやわらかい言葉で表現している。「熟れすぎたトマト」、「転がっている骨のかけら」のような言葉選びには、「巧っ!」と思ってしまう。「熟れすぎたトマト」の比喩はたまらない。トマトは身近にあるのに、なんで自分はこんな面白い比喩が思い浮かばなかったんだと思う。
身近にあるもの、汚いと思ってしまうものに美しさを見いだせるような人間になりたい。
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小川洋子「妊娠カレンダー」
表題は芥川賞受賞作品です。本ブログで引用した文章は、文庫本に収録されている「ドミトリィ」からのものです。
吉本ばなな「キッチン」
平易な日本語だけれど、個性がある文章で書かれています。平易で「らしさ」を出せる、吉本ばななさんには頭が下がるばかりです。
いしいしんじ 「麦ふみクーツェ」
平仮名の美しさを、僕に気づかせてくれた作家さんです。ツイッターをとおして、いしいしんじさんは、読者個人に「ありがとうございます」と伝えているようです。ずっと応援し続けたい。
宇佐見りん「推し、燃ゆ」
彼女の文章も大好きです。電車のドアが開くことを、セミの声が大きくなると書いていて、感激してしまいました。「自分の言葉」を大切にしている作家さんです。